こんにちは、横浜市肛門科のららぽーと横浜クリニックです。
皆さんは、人間だけではなく「犬や猫も肛門の病気にかかる」ということを知っていますか?
いつもとはちょっと違った視点である「人間ではなく動物の肛門病のお話」ということで、風変わりな内容となります。
今回は「犬と猫の肛門嚢炎」についてご紹介します。
肛門腺という器官から分泌されるものが肛門の両脇にある肛門嚢と呼ばれる器官に溜まります。肛門腺から出る分泌液は犬や猫のコミュニケーションに使われます。犬や猫がお互いの肛門の臭いを嗅いでいるのを見たことはありませんか?
それは、この分泌液の臭いを嗅いで様々な情報を得ているんだそうです。この分泌液を溜める役割がある「肛門嚢」という器官が今回お話ししていく病気のになってしまう器官です。
犬や猫の肛門嚢炎(こうもんのうえん)とは、この肛門の近くにある「肛門嚢」と呼ばれる器官に炎症が発生した状態を言います。犬に比べて猫では珍しいとされますが、全くないわけではありません。
肛門嚢炎は何らかの理由で分泌液が肛門嚢の中にとどまり、そのまま放出されない状態から始まります。そして溜まった分泌液の中で細菌が繁殖し、それを取り除くために免疫系が活性化して炎症が起こります。
さらにこの状態が放置されると、肛門嚢の中で作り出された膿(うみ)がどんどんたまり、膿瘍(のうよう)とよばれるコブのような膨らみに成長することもあります。ここまで放置してしまうと、このコブが破裂したり腫瘍になったりする可能性があるため大変危険です。
肛門嚢炎は一見すると人間でいう「痔核(イボ痔)」のような状態にも見えますが、実際にはこれらは異なるものです。人間が肛門嚢炎にかかるということもありません。
肛門嚢炎の主な原因には下記のようなものがあります。
通常、便をするときに動く肛門の筋肉によって押しつぶされ、中の分泌液を肛門内に放出します。しかし肛門嚢と肛門とをつなぐ管(肛門嚢管)に膿が詰まると、分泌液の正常な排出が滞り、肛門嚢の中に溜まったままになってしまいます。
分泌液を自力で排出できない犬や猫でも、飼い主が定期的にお尻のチェックをして肛門嚢を絞ってあげれば、炎症に発展することはありません。「やり方を知らない」とか「肛門嚢の存在自体を知らない」といった理由により、こうしたケアがおろそかになると、分泌液が嚢内に溜まって炎症を引き起こします。
日頃の運動量が不足していると、骨盤周辺の筋力が低下して効率的に肛門嚢を絞れなくなることがあります。肥満も原因の一つと言ってよいでしょう。
また、犬の場合、肛門嚢炎を発症するのは、大部分がトイプードル、チワワといった小型犬種です。その理由としては、肛門の筋肉の力が弱く、本来であれば自然排出されるはずの分泌液を自力で押し出すことができないためだと考えられています。
肛門嚢に膿が貯まると、不快感やかゆみを引き起こします。
初期の症状では、犬は尾を追いかけてクルクル回ったり、お尻をすりつけて歩いたり、後ろ足のももやつま先、脇腹、内股などをなめたりし、猫は特に内股の毛が抜けるほどなめたりします。
そのままにしておくと、肛門のかゆみはいっそう強くなり全身のかゆみへと変化します。前足の先をペロペロなめたり全身をかゆがったりするのも肛門嚢炎が原因のこともあります。肛門嚢の膿は通常1ヶ月程度で貯留しますが、早い個体では1週間でいっぱいになります。
自分の飼っている犬や猫が肛門嚢炎になってしまったら、どうしよう?
その場合は以下のような方法で対応しましょう。
肛門嚢にたまった分泌液を肛門絞りによって排出します。
やり方は、肛門の下の時計で言う「4時と8時の位置」を指で挟み、ギュッと押しつぶすように握ります。嚢内に液体がたまっている場合はピュッと勢いよく飛び出すことがありますので、シャンプーのついでに行うのが効率的です。また再発しないよう、飼い主が定期的に肛門を絞ってあげることも重要です。
抗生物質などを投与して、肛門に繁殖した細菌を殺します。
これは全身をターゲットとするよりも、ピンポイントで狙った方が効果的です。炎症部分に直接細い管を用いて、抗生物質や抗炎症薬を注入します。
投薬治療が効かない場合は、肛門嚢自体を手術で切除しまいます。
管(肛門嚢管)を残して肛門嚢だけを切除する「閉鎖式切除術」や、管もろともすべての肛門嚢を切除する「開放式切除術」などがあります。それぞれメリットとデメリットがありますので、担当の獣医師とよく相談の上、手術法を選択するほうが良いでしょう。
猫の場合には筋力が低下しないよう、日頃から遊びを欠かさないようにし、ダイエットによって適正体重を維持することも重要です。
適度な運動をしていれば、筋肉の収縮によって肛門嚢に力が加わり、中の分泌液が自然に肛門内に排出されます。
「痔」というのは二足歩行に進化した我々人類独自のものと言っていい病気ですが、犬や猫も私たちと同じように肛門の病気にかかります。
人間は言葉で症状を伝えることが出来ますが、犬や猫にはそれができません。飼い主である私たちが気づいてあげることが大切ですね。
普段から様子をよく見て、今回紹介したような症状があるかどうか確認してあげてください。
ららぽーと横浜クリニックでは、ワンちゃんやネコちゃんの肛門も診察します!!……とは絶対に言えませんが(ごめんなさい)、飼い主さんの肛門疾患にはばっちり対応していますので、ぜひ可愛いペットたちと一緒に健康なお尻を目指しましょう。